1980年代、90年代という比較 的近しい年代へと回帰する傾向は、ファッションの世界に限った話ではない。ファッションと親和性の強い高級時計市場においてもその傾向は同様だ。その代表的な存在といえるのが、今年のIWCだろう。同社は1月のジュネーブにおいて、既存コレクション「ダ・ヴィンチ」のリニューアルモデルを発表。ケースデザインのソースになっているのは、85年に発表された同名モデルのラウンドケースだ。象徴的な可動式のラグ、ツーステップのベゼルなど、32年前のエッセンスをスマートにリデザインしたその手法はお見事。加えて、ダ・ヴィンチ専用のアラビックインデックス、ランセット(槍)型の時分針、バタフライバックルを装着したオールポリッシュのブレスレットなど、新しいデザイン要素は極めて洗練されている。「男のための時計」をかつて謳っていたIWCだが、台頭する女性ユーザーに向けた配慮にも今は余念がない。直径36㎜のミッドサイズで「ダ・ヴィンチ・オートマティック 36」と「ダ・ヴィンチ・オートマティック・ムーンフェイズ 36」をリリース。各社ともレディス市場へのさらなる訴求へ注力しているが、可憐なムーンフェイズを12時位置に置いた後者は女性メディアからの評価が極めて高かった。もちろん、複雑時計の開発もさらに進化している。伝統的なクロノグラフのキャリバー89000に、永久カレンダーと月の影(陰と陽)で表示する新しいムーフェイズを統合。さらにひとつのサブダイアルで、アワー、ミニッツのクロノグラフレジスターとムーンフェイズを同軸表示することに成功したのだ。視認性と機能性のバランスの妙味が楽しめる複雑時計として、大いに市場を賑わすに違いない。