アバンギャルドな荒治療によって、ゼニスにラグジュアリーブランドのイメージを植え付け、定着させたティエリー・ナタフ氏。
彼が現役でゼニスのCEOとして活動していた時代、彼に対する否定的な意見も散見されたように記憶していますが、現在に至るゼニスの素晴らしい躍進は、その荒治療無くして有り得なかったと言えるでしょう。
ナタフ氏にとってゼニスでの最後の仕事となったと思われる、1969年のオリジナル・エル・プリメロの復刻版は、ポスト・ナタフ時代のゼニスの進むべき方向性を明確に指し示したものであり、世界初の一体型自動巻クロノグラフとして生まれて既に45年が経過した「エル・プリメロ」の魅力は、歳月を重ねれば重ねる程に輝きを増して行くことをも予言して見せたのです。
ゼニス:エル・プリメロ クラシック Ref. 03.2270.4069/01.C493
そんなゼニスは、今年も新たなるエル・プリメロ搭載機を発表しました。
今回新たに設計された42ミリ径の大き過ぎないラウンドケースは、厚さも11.8ミリに抑えられており、長めの角度を付けられたラグ、細いベゼル、ボンベダイアル、そしてドーム型風防などの組み合わせが醸し出す立体感に、デイトや12時間積算計を廃し、細長く、鋭い針とエングレーブされたスマートなバーインデックス、あえて文字盤との段差を無くした2つの積算計が描くシンメトリーデザインを加えて、1960年代初頭のモダンデザインを思わせるミニマリズムを体現しています。
しかしインダイアルの段差を無くしたことによる文字盤と針、そして重なり合う針と針とのクリアランス、そして全体の薄型化を狙ったが故の、裏蓋のサファイアクリスタルと自動巻用ローターのクリアランスの減少は、現代的な精密加工技術の前提なくして実現不可能であったことは容易に想像出来、この時計に現代の時計らしい精密感と上質感を添えています。
このクラシックかつ現代的なエレガンスに溢れ、これまでにない方向性を感じさせる新作は、決して語り尽くす事など出来そうにないエル・プリメロに、更なるエピソードを加える事となるでしょう。